RADファンしか読んで面白くない物語

１･携帯電話、マニフェスト

『人間の染色体はいくつか』
うーん、２５って答えたいとこだけどなあ……。
それやるとペケだからなあ……。
素直に２３て書いとくかなあ。

ミカは理科の答案用紙に２３と書くと、下をむいてあくびをした。

眠い目を擦りながら窓のほうに目をやる。五分咲きの桜を眺めながら、ミカは口の中で「ふたりごと」の歌い出しを呟いた。
「今からお前に何話そうかな どうやってこの感じ伝えようかな……」

今は春休み直前のまとめテストの最中。
誰にも聞こえないように、この桜に似合うように、そっとそっと歌った。

ミカが心酔しているバンドの名は「RADWIMPS」。
ボーカルの野田洋次郎、ギターの桑原彰、ベースの武田裕介、ドラムの山口智史からなる日本のロックバンド。ミカがRADWIMPSと出会ったのは今からおよそ一年前、５枚目のアルバム「アルトコロニーの定理」が発売されてすぐの頃だった。

衝撃、その一言。

こんな音楽を奏でる人たちが日本にいたなんて。

そこからはもう、想像の通りだ。
一年の半分以上はRADに費やしたと言っていい。
ミカの脳内には、メンバーの誕生日から曲の歌詞、題名、アルバムやシングルのジャケットまで全部のデータが入っている。