空色のモメント

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移動した教室にはまだ数人の生徒が残っていた。 鎖骨と太ももを大胆に露出している、少し派手な部類の女子たちである。教室に入ってきたわたしと優ちゃんを見るやいなや、口々にこう言った。 「あ、優子じゃん! 」 「ほんとだ。次、優子たちのクラスか」 彼女らは皆優ちゃんの友達だ。美人で陽気な優ちゃんには男女関わらず沢山の友達がいるのだ。 「そうだよー、英語なの」 気さくに話す優ちゃんと対照的に、わたしはなるべく目立たないようにそっと席についた。優ちゃんがわたしを巻き込まなかったことが、逆に有り難かった。この類の女子と話すのは苦手なのだ。 こんな時、中学の頃の優ちゃんは、出来る限りわたしに話を振るようにしていた。わたしが周囲に馴染めるように気を使ってくれたのだ。 わたしもその期待に答えようと、持ちうる限り全ての社交性と笑顔を振り絞り明るく振る舞った。 そして確かにその結果、多くの知り合いと友達を獲ることができた。 しかし、自分に嘘をつき続けることはできなかった。 ―――"自分"が他人に脅かされてゆく感覚。 他人に思考を犯され行動を支配される日々を重ねる度、徐々に自分自身を失ってゆく感覚に陥った。これからも永遠に失い続けて行くのか、と毎日先の見えない不安に襲われていた。 そんな恐怖を絶ちきってくれたのは、森山だった。 あの日を境に、わたしは自分を偽るのを止め、優ちゃんはそんなわたしを放っておいてくれるようになった。 そして今に至るというわけだ。 「寂しいやつ」なんて思われても一向に構わない。あの騒がしく不安な日々に戻るよりは今の方がずっとましだ。穏やかで安定している。 派手な彼女らは常に友達と一緒にいるにも関わらず、自分自身を失う感覚はないのだろうか? 不安になったりしないのだろうか? きっと心が強いのだろう。 もしくは、鈍感なんだろう。 どちらにしろ、羨ましいことだ。image=417684897.jpg
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