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「何故貴方がいるんです」
見た目からは想像のつかないような低い声を男に向ける。
だが、男は怯むことなくしばし考えるように沈黙したあとにゆっくりと首を振った。
「全く。本当に無愛想な方ですね。不愉快な気分になりますよ」
「はあ、すみません」
冷めた副会長の言葉にも男は怯んだ様子も見せない。そんな男の態度に、副会長はさらに目をキッと吊り上げる。
「さっさと消えて下さい。彼らの案内に来たなら、私が変わります」
男を見ることも無く言い放つと、その男は悠太に掴まれていた腕をやんわりととくと、静かに頭を下げて建物の方に歩いて行った。
「さて、私たちも行きましょう。
空司と……それから榛原くんと雨宮くん、ですよね?」
尋ねる口調と首を傾げる仕草に悠太と真人が頷く。
というか、何時から俺は呼び捨てにされたのだろうか?
「俺が榛原っす。こっちが雨宮 真人。案内、よろしく頼みます」
「ええ、任せてください」
副会長のあまりの変わりようへの驚きと、さっきの男のことを考えていた俺を余所に、和やかに会話を進める他三人。
「空司、どうした?」
「行くよ」
「へ?あ、ああ!」
素っ頓狂な声を出してしまったことに、羞恥が押し寄せてくる。それをごまかすように顔を俯けると、副会長に腕をぐいっと引かれそのまま歩きだした。
校内、昇降口にやってきた俺たちはぽかーんと一様に間抜け面をして言葉を失う。
「なんですか、コレ」
「理事長の御趣味なのだそうですよ」
副会長も内装の豪華さには思うところがあるようで、苦く笑っている。
高校生の通う学校に此処まで金を使えるのもすごいが、理事長は悪趣味だと思う。
…まあ、俺はそんな理事長殿と血縁関係に当たるわけだが。
この学園の理事長は、俺より10も年の離れた兄が勤めているのだ。
中学で特に志望校も無く、高校を探していた俺は兄にこの学園に誘われた。
ちょっと特殊だけど、楽しい学校だから、行きたいところが無いのならおいで、と。
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