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自己紹介が済むと、後ろの席に座るように促される。
「さて、一限は講堂に移動だね。じゃあ、皆移動して」
おとなしく座った俺たちを確認した先生は茶目っ気を含んだ笑顔で教室を出ていく。
そしてその後について、ほかの生徒たちが掛け声をあげてついていく。
残っている生徒も続々と席を立つ中、俺たち三人はまだ席に座っている、向坂と呼ばれた男子の元に向かった。
何と声をかけるか戸惑って後ろの二人を顧みると、悠太に脇腹を肘で突かれる。その表情を見ると、俺に声をかけるように促している。
えー、俺なの?と不満たっぷりに訴えれば、さっきは俺が犠牲になったんだ。お前の冥福を祈るぞ、と返された。
冥福って、俺死んでんじゃん。
ツッコミたいが、今は緊張の方が勝っていてそんな余裕は無い。
神様、仏様、真人様。とゆうことで真人を見るが、
「大変そうだね、二人とも」
なんて言われてしまった。
言外に、俺は無理だからな。と先手を打たれ脱力する。
うーん、なんて声をかけよう?
やっぱ学園を案内してもらうならお礼くらい言わなきゃだよな。
うーん。うーん。
友人二人をあてにするのを止めた俺はひたすら考える。
と。向坂と呼ばれた生徒が席を立った。扉に向かうその背中を慌てて追い掛けて、声をかける。
「あ、あの!」
教室を出る正に一歩手前。振り返った彼は眉を潜めて俺を見た。
「ぼ、僕は秋山 空司といいます」
敬語敬語敬語敬語敬語敬語………って、なんでまた自己紹介してんだよっ、俺はっ。
念仏のように"敬語"と唱えていたせいか、再会して数分のうちに二回も自己紹介するなんて……阿呆だろ。
……ま、まあ仕方ないか。と、気持ちを切り替えて笑顔を見せる。
「よろしくね、……えっと」
向坂?向坂くん?どっちの方がいいだろう。
やっぱ初対面だし、くん付けのがいいか。下の名前も分からないし。
手を差し出したまま考えていると、彼はそれを一瞥したあと無表情のまま口を開いた。
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