1st

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「麻宮先生どうかしたんですかー?」 「あ、いえ…。なんでもありません。すみません、ぼーっとしてしまって。…さて、まずは自己紹介でもしますか?それとも、必要ありませんかね」 茶目っ気を含んだ言い方に、チワワの肩の力が緩むのが分かった。 この先生、凄いな。何より、俺にあんな普通の対応をするのが珍しい。 この高等部の教師は、保健医を除いた全員に快く思われていないと自覚があるから、なんだか意外だ。 保健医には、何故かどう頑張っても嫌われないのだ。 いくら私情があるからといって、嫌ってくれなければ困るのだが、どんだけ冷たくしたって、暴言吐いたってダメだった。 最後には手の打ちようがなくなって諦めた。 もう好きにしてくれ、と言った時のしてやったり顔が頭に浮かんで慌てて振り払う。 この先生の態度は驚いたし、別にこの先生に不満もない。だからあの困ったような顔は少し良心が傷んだ。 だけどそれでも。入ってこられる訳にはいかない。 意識があらぬ方に飛んでいたが、ふと我に返るといつの間にか各委員会决めが始まっていた。 どうやら、自己紹介は省くことに決まったようだ。 「それじゃあ、まず学級委員長を決めようか。誰か立候補はいますか?」 先生の問い掛けに、ざわざわというざわめきはあっても、やる、と言い出すものは誰もいない。 毎年一人くらいは学級委員を名乗り出る奴がいるが、今年は珍しくいないようだった。 「いないみたいですね。では推薦はどうでしょう?」 今度の問い掛けには、若干間があったが、ちらほら生徒の手が上がる。そして何故か視線を感じる。 なんだか嫌な予感。 「はい、それじゃあ君。窓側の後ろから三番目の…片桐くん、かな」 片桐と呼ばれたそいつは去年も同じクラスだった。そして、特に何をしたわけでもないがよく俺を揶揄っていた奴でもある。 「はい!俺は向坂くんを推薦します。他のみんなもそうだよな?」 な?と周りを見回した彼に続いて、他のみんなもそれがいいと賛同する。 面倒な仕事が回ってくるくらいなら、誰でもいい、自分じゃない誰かがやってくれ。 そんな声が聞こえてきそうな空気だ。
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