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「斎藤先生」
帰り際の職員室でさりげなく呼び止められて、振り向いた。
新しく赴任してきたその人の可愛らしい姿。男子生徒の間でも専ら噂の彼女は、少しはにかんだように笑った。
「なんです?」
「お帰りですか?」
「ええ、まぁ。今日は早く片付いたので」
「それじゃあ……」
お食事でもいかがですか?その言葉につづく台詞がそうである補償はないが、九割方外れてないだろう。
いつもは女傑なんていわれても良いぐらい気持ちの良い女っぷりがこうもなよっとしていては。
もちろん彼女が敢えて作っているのではなく、好意を寄せている相手を前にそうなってしまう女心なのだろうが、少し残念な気がした。
だから、言わせないのが最善だと遮る。
「すいません。俺、今日家の食事当番なんで」
「家……ですか」
「ええ実家の。今日はオムライスですから」
「じゃあ仕方ないですね。また今度いってくれますか?」
曖昧に笑ったのは、約束は出来ないからだが、彼女は気にしていないようだった。
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