1 プロローグ

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 駅の入り口で、反戦運動のビラを巻いてる被戦者の遺族達と、それに逆らうかのように『君が代』をかなりのボリュームで流す、黒い車が行き交うような、街。 あちこちにある、まるでレトロ街を思わすようなボロボロ木造住宅。見知らぬ人が車で野良犬を轢いてしまえば、ゾロゾロとその犬の飼い主が急遽現れる。  すぐ近くにはリトル●●と呼ばれるような場所がいくつもある。 かなり多国籍な人間が集っている。 歩けば、やくざとすれ違う。 歩けば、誰かと喧嘩になる。 どう表現するのが正しいのだろうか? 下町。ダウンタウン。そんな生易しいものなんかじゃくて、スラム。 そう、表現した方が一番近いかもしれない。 荒んだ環境が、荒んだ人間を育てる。 子供が子供らしい笑顔を見せるのは、ドラマや映画。作り事の中だけ。 サザエさんのワカメちゃんや、ちびまる子のタマちゃんは、どこにもいない。 オレの周りにいた友達は、みな、大人の気持ちを感じ取るのが上手かった。  親がいなくても子は育つ。 食べ物と、住む所さえあれば。 だから、人を騙してでも生きてさえいければいい。 物心が付く頃から、女の子はマネキュアを塗り、茶髪に染めて、パーマを当てる。 男だって似たようなモノで、眉を剃って、髪を金髪にする。 誰もが、倦厭するような場所にオレは生まれた。  母親方のババアが死んで、その土地と家屋を相続する事になり、オレたち家族は引っ越した。  だから、始めて志緒理を見た時、オレはうらやましさと憧れをすぐに抱いた。  絵空事にしか存在しないはずの、邪気の無い笑顔。 親に愛されて、誰からも祝福されてるような、純粋な子供が、ホントに存在するんだ!! 今まで周りにいた子供とは全然違う。  オレみたいに汚れた人間が触れてはいけないような聖域。そして、ひきつけられる天真爛漫さ。 昔、聞いたことがる。 天真爛漫って言葉は、ホントに愛されて育った人間にしか使えない言葉だと。 その言葉こそ、志緒理にはぴったりだと思える。 何も知らないかわいい女の子を、いつ頃から女として意識しだしたのだろうか? もう、わからない。 でも、オレは知っていた。 彼女を怖がらせてはいけない事と、彼女の笑顔を守らなければいけない事を。
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