14人が本棚に入れています
本棚に追加
「侯爵っ!?」
牧師様が心底驚いて息を呑む。
そして、まだ二十代前半の若き侯爵を穴が空くほど見つめている。
牧師様の視線の先を追うように、私もドゥナ様へと視線を向ける。
するとドゥナ様はまるで逃がさないとばかりに私の手首を掴んで引き寄せ、口元にだけ笑みを浮かべると、驚きで呆然としている牧師様に話し掛けた。
「どうやらずいぶん妻が世話になったようですね。この礼は後日改めてさせて頂きます。それでは今日の所はこれで失礼致します」
牧師様の返答を待たず、ドゥナ様が踵(きびす)を返して歩き出す。
もともと歩幅が違う上に足早で歩くドゥナ様に手首を掴まれた私は、まるで引っ張られているような状態になりながらも転ばないよう、祭壇から入口へと続く長い通路を小走りでドゥナ様について行く。
背後で我に返ったらしき牧師様の、私を心配する声が聞こえてきたけれど、私は振り返らずに開け放たれたままの教会の扉をドゥナ様と共にくぐり抜けた。
最初のコメントを投稿しよう!