2 出逢い

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座り心地の良い上等な馬車に揺られながら、私は黙って俯いていた。 私の正面に座っている、口髭を蓄えた立派な紳士が心配そうな表情で私を見つめているのには気付いていたが、胸の中いっぱいに広がっていく不安が私を無口にさせる。 母は私が8歳の時に亡くなった。 そして今また父を病気で亡くし、頼れるような親戚もいない。 父の葬儀で初めて顔を合わせた親類は、みんな相続や遺産の分配で頭がいっぱいで、父の死を悲しんでいる人は一人もいなかった。 そんな中で唯一、父の死を悼み、残された私のことを気遣ってくれたのが、父の学生時代からの友人であるエデュス侯爵様だった。 エデュス侯爵様は母が生きていた頃から年に数回父を訪ねて来られていたので、以前から私のことをとても可愛がって下さっていたし、私もエデュス侯爵様のことを『おじ様』と呼んで慕っていた。 だから、おじ様が私を引き取ると言って下さった時は、本当に嬉しかった。 だけどいざ、おじ様と一緒にエデュス邸に向かう馬車に乗っていたら、徐々に漠然とした不安が私を襲ってきた。  
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