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しばらく後、立派な門をくぐり抜け、私の生家より何倍も大きい邸の前で、馬車が止まった。
おじ様の手を借り、馬車から降りると、邸はよりいっそう大きく、そして何故か冷たく感じた。
「おじ様……」
邸の存在感に圧倒されて、私は思わずおじ様の後ろに隠れた。
そのタイミングを見計らっていたかのように、邸の扉が開き、中から燕尾服を着た初老の男性が姿を現した。
「お帰りなさいませ。旦那様」
「ああ。ただいま、フリッツ」
おじ様の背中からそっと覗くと、フリッツと呼ばれた初老の男性が恭しく頭を下げていた。
「この方がグリジット家のご令嬢、セレさんだ。今日からこの邸に住むことになるので、色々気に掛けてやってくれ」
そう言うとおじ様は振り返って、私を見た。
「セレちゃん。彼はこの邸の執事、フリッツだ。ここでの生活に何か不都合があれば彼に言うといい。この邸のことはすべてフリッツに一任してある」
「初めまして、セレ様。旦那様から紹介に預かりました、執事のフリッツです。どうぞ宜しくお願い致します」
フリッツさんが表情ひとつ変えず、私に頭を下げる。
その様が、なんだか冷たく感じて、私はおじ様の背中に隠れたまま「こ、こちらこそ……よろしく、お願いします」と小さな声で言うのがやっとだった。
「セレさんは人見知りでね」
そうおじ様が庇(かば)って下さり、特に問題もないまま、執事のフリッツさんの案内で、おじ様と共に邸の中に足を踏み入れた。
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