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天使のような美貌を目の当たりにして、私は呼吸をするのも忘れて、こちらへ歩いて来る彼をボーと見つめていた。
「出迎えも出来ず、大変失礼致しました」
彼はまっすぐおじ様の前にやって来ると謝罪の言葉を告げ、その青く澄んだ目を私へと向けた。
「そちらにいらっしゃるのが、グリジット男爵のご令嬢でしょうか?」
美しい男性に見つめられたうえ、いきなり自分のことを言われて驚き焦った私は、とっさにおじ様の背中に隠れた。
初対面の相手に対して失礼な行為だということは分かっていたけど、どうしても彼の視線に晒されることが恥ずかしくて堪(たま)らなかった。
「セレちゃん。大丈夫だから」
おじ様がいつものように優しい声を掛けてくれる。
そして目の前にいる彼にも、私が人見知りする性格で悪気はないのだと説明してくれた。
「そうでしたか」
おじ様の説明を聞き終えた彼が一言答えた。
私は、こんな失礼な態度をとってしまったことを怒っているのではないかと心配しながら、そっと彼を覗き見た。
すると意外なことに彼は微笑んでいた。
そして私と目が合うとにっこり笑って、こう続けた。
「ですが、これからは生活を共にするのですから、遠慮は無用です。すぐには無理でしょうが、私のことは家族と思って仲良くして下さいね」
あんなに失礼な態度をとった私に、彼は満面の笑顔で優しい言葉を掛けてくれた。
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