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「私のことも……その、セレと……お呼び下さい。………………ドゥナ様」
いくら本人から名前で呼んでもいいと言われたからといって、本当に名前で呼んでもいいものなのかと躊躇(ちゅうちょ)しながら、私は目の前にいる美しい男性の名を呼んだ。
するとドゥナ様は、まるで大輪の薔薇が綻(ほころ)びるような華やかな笑みを私に返してくれた。
「名前で呼んで頂けて嬉しいです。それでは、私はこれから貴女のことをセレ嬢とお呼びすることに致しますが、よろしいでしょうか?」
素敵な笑顔。
それとドゥナ様に自分の名前を呼ばれたというだけで、私は体中の熱が上がっていくのを感じた。
イヤ!
恥ずかしい。
私は真っ赤になった顔をドゥナ様に見られまいと、とっさに顔を伏せる。
そして、そのままの状態で小さく頷いた。
「ありがとうございます。それではこれから、どうぞよろしくお願いします」
そう言ってドゥナ様が私に右手を差し出す。
その動作で握手を求められたのだと思った私が右手を差し出すと、ドゥナ様はその手を握り返すのではなく、下から掬(すく)うようにして私の手を取った。
驚いて思わず顔を上げると、ドゥナ様はそのまま私の右手を自身の方へ引き寄せ、そしてそっと手の甲へ口づけを落とした。
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