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「――イヤ!!」
突然の出来事に一瞬頭が真っ白になり、そしてすぐドゥナ様が私の右手に口づけをしているのだと意識した瞬間、私は自分の右手をドゥナ様の手から引ったくって叫んでいた。
叫んだ後で「しまった」と思ったけれど、もう後の祭りだった。
おそるおそるドゥナ様を見上げると、先程までの笑顔は消え、代わりに驚きに目を見開き、表情は硬く強ばっている。
「あっ……。あの、私……」
自らの失態を繕うため、私は泣きそうになりながら口を開いた。
「その、…………ごめんなさい」
『口づけされたのがイヤだったわけではないんです』
『いきなりだったから、恥ずかしくて』
『決して、ドゥナ様を嫌いなわけではないんです』
頭の中では伝えたい言葉が溢れてくるのに、結局私は頭を下げることしか出来なかった。
その後は、おじ様が取りなして下さり、なんとかその場は収まった。
「驚かせてしまって申し訳ありませんでした。セレ嬢が社交的な挨拶に不慣れとは存じ上げず、失礼を致しました」
そう言って、ドゥナ様も笑顔で私の非礼を許してくれたけれど、私はお二人のご厚意にただただ恐縮するばかりだった。
これが私とドゥナ様の出逢い。
そして、同居生活の幕開けだった――。
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