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「そういえば、セレちゃんは花が好きだったね。ちょうど今の時期、庭園の花が見頃のはずだから、まだ見ていないのなら一度行ってみたらどうかな? きっと気に入ると思うよ」
「えっ。……本当ですか? 是非!」
おじ様の提案に、私は喜びを隠せなかった。
私がこれまでお父様と暮らしていた邸には、庭園なんて呼べるような立派な庭は無かった。
だけど、小さな庭にある花壇は、いつ見ても季節折々の綺麗な花を咲かせていた。
その花は毎年お父様とお母様が一緒に種を蒔いて大切に育てていたということを、私はずっと知らなかった。
そのことを知ったのは、産後体調を崩されていたお母様の容態が悪化して、満足にベッドから起き上がれなくなってからだった。
その後は、お母様の代わりに私がお父様と一緒に種を蒔くようになった。
咲いた花を一輪摘んでお母様に持っていったら、とても喜んでくれたっけ。
そしてお母様が亡くなった後も、私は毎年お父様と一緒に花の種を蒔き続けて、咲いた花はお父様と二人でお母様のお墓に見せに行っていた。
道中、お父様が語ってくれるお母様との思い出話を聞きながら。
その思い出の花壇も、今では邸ごと人手に渡ってしまったけれど――。
「どんな花が、咲いているか……楽しみです」
私がにっこりと微笑むと、おじ様も私に微笑み返してくれた。
その後、おじ様はドゥナ様の方へ顔を向け、こう切り出した。
「ドゥナ。せっかくだから、この後セレさんに庭園を案内してあげなさい」
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