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村の中央にある井戸へ水を汲みに行った帰り道、出会った村人と挨拶を交わす。
牧畜業の盛んなこの村は、都会の喧騒とは対照的に穏やかでのんびりとした空気が漂っている。
そこに住む村人達も純朴で温かな人ばかりだ。
少し世間話をした後で、私は村外れにある小さな教会へと向かった。
小さいながらも石造りで頑丈にできている教会の扉を開けて中に入る。
正面の美しいステンドグラスを眺めながら、通路を奥まで進み、隅(すみ)に水の入った桶を置く。
私は雑巾を用具入れから取って来ると、すでに日課となった礼拝堂の掃除に取り掛かった。
黙々と作業をこなし、あと少しで雑巾掛けが終わるという時に声を掛けられた。
「精が出ますね」
耳慣れた男性の声に、私は雑巾を持ったまま声のした方へ顔を向けた。
「牧師様」
「セレさんのおかげで、この教会も随分綺麗になりました。ありがとうございます」
「そんな……。むしろ私の方こそ……その、感謝しています。何処の誰とも分からない私なんかを……置いて、頂いて」
半年前、お金も行く当てもなく、途方に暮れていた私を、何も聞かず受け入れてくれた牧師様やこの村の人達。
この人達には、本当に感謝しても仕切れない。
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