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「すべては神様のお導きですよ」
穏やかに笑う白髪混じりの牧師様に、私も自然と笑顔になる。
あの日、すべてを捨てて逃げ出して来た時には、こうして笑うことが出来る日が来るなんて思ってもみなかった。
「お疲れになったでしょう。少し休憩しませんか? 美味しいお菓子を頂いたんですよ」
「あの……ありがとうございます。でも、その、あと少しですから……」
「では、私は奥でお茶の用意をしていますから、何かあれば呼んで下さいね」
優しい微笑みを残し、奥の部屋へと去って行った牧師様を見送ると、私は手にしていた雑巾で掃除を続行し始めた。
ようやく拭き掃除を終え、汚れた雑巾を隅(すみ)に置いていた桶の水で丹念に洗う。
よく雑巾を絞ると、私は桶の縁(ふち)に掛け、桶を持ち上げた。
そしていつものように祭壇の前で足を止め、掃除用具を傍らに置いて両膝をつき、祈りを捧げる。
その時、背後からギィーと教会の扉が開く音がした。
今までも、村人達がお祈りに来ることがあったので、今回もてっきりそうだと思い、私は立ち上がると来訪者を笑顔で出迎えた。
「こんにちは。お祈りですか?」
けれど、来訪者が誰なのかを認識した瞬間、私は自分の笑顔が引きつっていくのをはっきりと感じた。
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