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もう、だめ……。
逃げることを諦めようとしたその時、救いの声が聞こえた。
「セレさん。誰かいらっしゃったのですか?」
反射的に声のした方へ顔を向けたため彼の視線から逃れられた私は、奥の部屋から現れた牧師様に駆け寄った。
その際、傍に置いていた桶にぶつかって中の水を零してしまったけれど、気にしている余裕はなかった。
泣き出してしまいそうになるのを堪えて、牧師様の陰に隠れる。
「セレさん?」
「……助けて」
震える声で、それだけなんとか伝える。
牧師様はどうやら今の状況を察してくれたらしく、私を背に隠したまま、祭壇の前に立っている彼に声を掛けた。
「こんにちは。何か御用でしょうか?」
牧師様に話し掛けられた彼は、にこやかに笑ってそれに答えた。
「彼女をこちらに渡して頂けませんか?」
「失礼ですが、どちら様か伺っても宜しいでしょうか?」
「ああ、これは失礼しました。私の名はドゥナ・アンゲル・エデュス。彼女、セレ・イステラ・エデュスは私の妻です」
そう言って、牧師様の肩越しから覗く私に視線を向ける。
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