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(※男の子目線)
兄貴のあとに続いて緊張を隠せないまま、家に足を踏み入れたあんたを見た。
それが最初だった。
「今日はなに食べたい?」
「なんでもいーよ」
俺の答えに頬を膨らます。なんでもいい、という答えが彼女は嫌いらしい。
「じゃあ、オムライスとシチューどっちがいい?」
「・・・オムライス」
そう言った俺に満足そうに笑って、オムライスだったら買い物行かなくていいかなぁ、などと呟きながら、冷蔵庫を漁り出す。
最初見たときおどおどしていた彼女も、今じゃもうずいぶんと家の中に馴染んでいる。
そりゃあ、三年も経ちゃあ当たり前か。
三年前、四つ年上の兄貴に連れられて、彼女は家にやって来た。
緊張していた彼女だが、俺の姿を見つけて、
「弟くん?よろしくね」
と声を掛けてきた。
最初は身近にはいない年上の女への興味。
一年程経つと、共働きで帰りの遅い両親の代わりに、時々昼や夜ご飯を作りに来るようになった。
いつの間にか、兄貴が連れて来るのが楽しみになっていて、彼女が来るときには家にいるようになって。
もちろん、兄貴の彼女という名目を痛いくらい理解しながら。
「そういえば、今日兄貴は?」
「大学になんか必要な資料忘れたらしくて取りに行ってる」
俺はまだ、気持ちの一欠片も伝えていない。否、伝える勇気などもともとありゃしない。
でも、たまに思うんだ。あの小さい身体を後ろから抱き締めて、口付けて自分のものにしてしまえたら、なんて馬鹿な幻想を。
そんなことをしたって、あんたは俺のものになりゃあしないなんてわかっているのに。
「そうだ!言わなきゃいけないことあったんだ」
照れたように彼女はこちらを向く。
「わたしたちね、・・・大学卒業したら結婚することになった」
わたしお義姉さんになるね。そう続ける。
その声と同時に重なるように、玄関のほうからただいま、という声が聞こえた。
彼女はおかえり、と玄関まで駆けていく。
ナイスだ兄貴、なんて心で思いながら、俺は急いで部屋へと駆け込んだ。
よかった、こんな酷い顔見せずにすんだ。
ドアに寄りかかり俺は床に落ちていた紙をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱へ投げた。
ゴミ箱に 丸めて捨てた
紙屑の 中に気持ちも
閉じ込められたら
俺は気持ちも伝えられないような弱い男だ。
でも、それでも。
《あんたの幸せを笑って祝えるような強さが欲しいんだ》
fin
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