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幸せを感じながら、君の隣を歩く。この人の笑顔が好きだと思った。この人の隣にいたいと思った。
ふと、反対側の歩道に彼が歩いてるのを見つけた。
あの頃、意識していなくても目が追ってしまっていた人。
わたしの好きだった人。
部活の先輩だった彼は、優しくて格好よくて、学校内でも人気者だった。
そんな優しさに触れてしまったわたしが、恋に落ちない訳もなく、気付いたら好きになっていた。
例えば自然と目が彼の姿を追っていたり。
例えば人混みの中でも彼の姿をすぐ見つけられたり。
「先輩、ちょっと教えてほしいんですけど・・・」
少しでもわたしを見てほしくて、たいして用事もないのに、話し掛けたりもした。
結局、わたしのあのときの精一杯の告白は、好きな人がいるからって、断られてしまったけど。
あの頃は必死だったなぁ、なんて、懐かしい気持ちに想いを馳せる。
それと同時に、不思議だな、とも思った。
あんなに好きだった人がいたのに、今は他に大切な人がいるなんて。
あのときは
たしかに君が 好きだった
いまは誰かに
一途でいても
あの頃のことを後悔したことなんてない。
きっと今のわたしがいるのは、あの頃の出来事を経ているからな訳だし。
あのことがあったからこそ、わたしは今、この人の隣にいるのかもしれない。
いつだって、いい加減な気持ちだったことなんてない。
あの頃は彼が本気で好きだったし、今はこの人のことを本気で想っている。
もう一度だけ振り返ると、彼と一瞬目があった気がした。
彼の隣に歩いているのは、あの頃好きだと言った彼女だろうか、それとも別の人だろうか。
「おーい、聞いてる?」
その声で目線を戻した。
「誰かいたの?」
わたしは口角を少し上げて、なんでもない、と笑いながら彼の手を握り直した。
過去に誰が好きでも、これから何があろうとも
《今はこの人を好きなわたしがわたしなのだ》
fin
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