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赤い花を胸に付けて、みんながいつもより少しだけ誇らしげに歩く。
「写真撮って!!」
さっきまで響いてたシャッター音も、女の子のすすり泣く声も、男の子が騒ぐ音も聞こえなくなった。ざわめきが外に移動したらしい。
さっき式のときに泣いて崩れた顔を洗って、教室へ戻る。
姿勢よく歩くわたしの足も気を抜けば震えそうだ。
「みんなで外で写真撮るみたいだから、早めに来なさいよね?ちゃんと教室に行くように仕向けてあげるから」
そう言った友達の声を思い出す。多分もうそろそろ来る。
どこに立ってればいいかな、いつ話すべき?
ダメだ、何をしたって声が震えそう。
ガラガラという音を立てて、後ろのドアが開く。
「あれ、まだ残ってたの?」
「あ、うん・・・」
何を言ったらいいかわからなくて曖昧な返事をしてしまった。
「俺、カメラ忘れたから取って来いって頼まれちゃってさ」
頭の片隅で話を聞きながら、自分に喝を入れる。
今日は卒業の日。
三年間過ごした学校から、日々から、友達から旅立つ。
たくさんのことがあった三年間でやり残したことは今日終えておかなくてはならない。
だからわたしは、ずっと好きだった、三年間片思いし続けた彼に、気持ちを伝えることを決めたのだ。
でも実際、なかなか言葉にすることができない。
積もりに積もった気持ちをここで終わらせると考えると、やっぱり重たい。
簡単に口に出せるものじゃない。
それでも。それでも言わなきゃいけない。そうしなきゃ、わたしは多分、前に進めないから。
早くお前も来いよ、と言って出ていこうとする彼を呼び止める。
「あのねっ、」
教室に 1人残った
その訳は 最後の想い
伝えるために
ずっと好きだったの。君に届きますように。
わたしが言い終わる頃には、わたしと彼の距離は驚くほど近くなっていた。
《抱き締めてくれたのは成功とみていいのかな》
fin
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