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この恋に幸せな終わりがないことなんて、わたしは最初から知っていた。
出逢ったときからあなたは、好きになっちゃいけない人だった。
せめて、左手の薬指に嵌められた静かに主張する指輪さえ外してくれてれば、救われたかもしれないのに。
最初は尊敬できる上司だった。仕事もできて、誰に対しても平等に接する、みんなの憧れの的だった。
あの夜、飲み会のあと酔っぱらったわたしは、何故かあの人と一緒にいて、甘い声で名前を呼ばれて、気付いたときには、もう今の関係になっていた。
朦朧とする意識の中で、あの指輪だけははっきりと見えたはずなのに。
でもわかってる。あの人はわざと指輪をつけてた。わたしの覚悟を確かめるため。
無機質な電子音が鳴り響く。
シャワー室から出て、携帯を取る。
確認しなくてもわかる。こんな時間にかけてくるのはあの人しかいない。
急いで髪を乾かして家を出る。電話一本で飛んでいくなんて、どれだけ都合のいい女だろう。
わたしが想いを口にしたら、すぐに終わる関係だというのに。
あの人と同じ指輪をつける人からメール一通でも来たら、わたしを置いて出て行くような人なのに。
会えばまた 苦しくなるの
わかってて また会いにゆく
わたし馬鹿なの
あの人がまた甘い声でわたしの名前を呼ぶ。
きっとわたしの気持ちなんて全部気付いてる。それでも気付かないフリをしてる。
罪ならわたしが全部受けよう。
罪悪感より会いたい気持ちが勝ってしまった、わたしを赦してなんて言わないから。
この関係が、すぐにでも壊れてしまうものだなんてわたしが一番わかってるから。
だから、世界中の誰もに馬鹿だと笑われたって、
《わたしの名前をあなたが呼ぶうちは側にいたいの》
fin
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