~第一章~

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『ゆうたくん!』 慌てて竿を置き、Tシャツで涙を拭った… 『あっ…七海…』 『なんか釣れた?』 『いやまだ始めたばかりだから…でもなんでこんな所おるん?』 『何となく歩いてたら、釣りしてるゆうたくん見えたから…来ちゃった』 バケツを挟み隣に座る七海… その様子が何故かいつもと違うようにみえた… 『なんかあった?元気ないみたいやけど…』 『…ちょっと、お父さんと昨日…ケンカしちゃって』 『そっかぁ…まだ仲直りしとらんの?』 『お父さん…好きな女の人…いるんだって…だから…今度…その女の人、家に連れて来るとか言うから…』 『いやなん?』 『絶対いや!あたしのお母さんは…死んだお母さんだけだもん!』 『………………。』 『ごめんね…なんか…』 『いいよ…全然気にせんで』 横目で七海の顔を見ると…今にも泣き出しそうな表情… 七海にも母親がいない… 東京から引っ越して来た頃からいなかったので、あえて本人には理由は聞いてはいなかった… 『あっ!きたきた!七海みて!デカそうだぁ!』 うつむく七海を励ますために、少しおおげさに振る舞った… ひっしにおどけた甲斐あって、海が赤く染まる頃にはいつもの七海に戻っていた… 『そろそろ…帰ろっか?七海…大丈夫?』 『うん…もう大丈夫!…ゆうたくん…ありがとう…ほんと…優しいね…。』 『…………。』 七海と別れ… 一人歩いていると、何故か笑顔が湧いてきた。 七海に言われた『優しいね』あの言葉が頭から離れない… 家の近くの三叉路まで来たとき… 『勇太!』 驚いて頭を上げると、軽トラに乗った父親が不思議そうにこっちを見ていた。 『な~にニヤニヤして歩いてんだ?変なもん食ったか?』 『そんなんじゃな… 最後まで話しも聞かず、坂道をあがる車の砂埃にむせながら、その後を小走りで家路についた。
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