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国道から海岸に降り岩場へ行く…
辺りを見渡したが恭介の姿はそこには無かった。
岩の窪みに目をやると、引き潮で逃げ遅れた小魚が一匹、自然の罠に捕まっているのがみえた…
『しまった!こんな時にかぎって…』
蟹やヤドカリしか捕れない時はいつも持っているバケツを、今日はすっかり忘れていた。
『そうだ!漁師小屋にならあるかも』
海岸を少し歩くと、昔の漁師が網や道具をしまっていた小屋がある。今は使われていないその場所を漁師小屋と呼んでいた。
慌てる様に漁師小屋へ向かい裏へまわると、いくつかのビールケース、破れた網や古びたドラム缶が置かれその上には取っ手のとられた古バケツが無造作に置かれていた…
バケツをとり岩場の窪みに戻ると、両手で魚をすくいバケツに入れる。
『珍しいなぁ…めったに魚なんか捕れないのに…』
『珍しいね……』
『うわぁ…!きっ…きょうすけ…いつからいたの?』
『さっきからいるよ…。ずっと前から…』
思わず放しかけた両手に力を入れ直し、漁師小屋に戻る…。
太陽の光は容赦なく照り付け、小屋の裏の二本の松の木では、それを喜ぶ蝉の合唱が続いている…
『この魚…きっと何か不思議な力があるんだよ』
『勇太もそう思う?僕もそう思っていたんだ…』
『ほら…いつかトキ婆さんが言ってた…珍しいものには、他のものよりも少しだけ不思議な力があるって…』
『僕も聞いた事があるよ、その話し…』
『だからこの魚も、きっと不思議な力があるんだと思う』
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