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朝、目が覚めると父親はすでに漁にでていた。
昼頃まで大量の宿題に頭を悩ませ、飽きる頃には釣竿を持ち玄関にしっかり鍵をかけ外にでた。
家を出た場所からは海が見え、遠く沖には数隻の船が止まっているように見える…
今日は晴れているが、雲が多いせいで昨日よりも陽射しが心地好く感じられた…
少し歩き堤防沿いに出た時トキ婆さんに出会う…
『あっ!トキ婆さん…何してるんですか?』
海に向かい手を合わせ何か口ずさんでいる…
『勇太くんかい…今年は事故が起こらないように、海神様にお願いしとるんよ…』
トキ婆さんの息子さんも、生きていた頃は漁師…
二年前の冬の海で事故にあい、かえらぬ人になってしまった。
その同じ船に乗っていたのが…自分の父親だった…
だから何故かトキ婆さんに会うと…いつも申し訳なく思ってしまう。
『…それじゃ僕はこれで』
『勇太くん…あんた恭ちゃんに会っとるね…』
『…はぃ…………。じゃあこれで!』
踵をかえし走る…
海にせりでた堤防まで走り振り返ると、トキ婆さんの姿はもうさっきの場所には無かった…
バケツを置き糸に沙蚕を刺し、海にたらす…
『父ちゃん…』
何故か父親がこいしくなる…
何故か目から流れる涙…
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