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ひゅん、ひゅん、ひゅん。
耳元を鋭い何かがかすった。
目の前の壁に、重々しいナイフがドドドドッと刺さる。
「ひゃっはぁ! 鬼ごっこはもうおしまいかい? もっと本気で逃げないと、さっさと切り刻んじゃうよ?」
青白い肌が月明かりに照らされて、余計に不気味だった。
その男は、両手にびっしりナイフを持ち、僕に迫る。
「野郎を切り刻むのは趣味じゃないんだがねぇ……まぁ、主の命令だ。今日のところは我慢するかね」
全身が震えた。震えて、動けなかった。
足が、動かない。でも、逃げなきゃ。逃げなきゃ、殺される。
どうしてだ。
どうしてこんなことになったんだろう。
僕が何をしたっていうんだ。
僕は走った。足がもつれて、全然前に進まない。
すぐ後ろから、不快な笑い声が追ってくる。
迫り来る死を前に、僕はどうすることもできずにいた。
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