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海の中を走り抜け水上へと静かに浮き上がる、大きな桜の木があるそこは桜乱舞の海。桜の根本で止まる列車に乗り込んできた老婆は、小柄な身体には少し無理がある荷物が手にされていた。
「…あの、お婆さん」
優しい顔付きの青年が立ち上がり、老婆へ紳士的な対応で席を指す。
「よければココ、どうぞ」
ニコリと微笑む爽やかな青年、全てが全て出来上がっている好青年なのに、頭の耳上辺りに禍々しい羊の角が周りの者を脅えさせていた。
「あ、ありがとねぇ…」
「いえ、今日は何処へお出掛けですか?」
戸惑いながらも老婆は譲られた席に腰を下ろす、ふうと自然に出る息をはいては被っていたベレー帽を手にした。角以外は優しい青年はニコリと柔らかく微笑む、老婆も気を許したのか少し戸惑いつつも微笑みを返した。
「…娘に会いにさ」
「娘さんに…、遠いのですか?」
「いやぁ駅まで迎えに来てくれるらしいよ」
「ああよかった、それなら安心ですね」
心配をしてくれていたのだろう、安堵の息をはいた青年は胸に手を当ててまた笑った、老婆は恐怖を感じないことに不思議に思い、彼のことをまじまじと観察をしてはゆっくりと小首を傾げた。
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