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「はい、○○、……」
(あ、○サンだ……)
と、思ったきり、言葉が出ない。
名乗れない。
自分の名前がわからない。
「あ……っ、あのっっ…………………………吹雪です」
「だーれぇー?しらなぁーい(笑)
ちょっと和む。
「(笑)師長?ちょっと待ってね」
師長は会議で不在、結局、主任に代わって貰う。
「なしたー?おつかれーぃ」
「あの……勤務の事でご相談が……」
「…何かあった?」
「実は従兄が亡くなって……」
「え?イトコって……まだ若いでしょう?」
「はい、あの……30代で。肺Caの脳メタだったらしくて……ケモ・ラジしてたらしいんですけど……親戚中知らなくて……」
説明しながら、まるで申し送りだな、何て思う。
アタシは誰の話をしている?
どの患者?
これがT兄の話?
Ca→癌
メタ→転移
ケモ→抗癌剤治療
ラジ→放射線療法
全部日常的に使っている言葉。
でも、身内にこの言葉達を使ったのは初めてだった。
結局、アタシは代わって貰いたい勤務の日にちを見事に間違え、もう一度電話することになる。
主任は迷うことなく、大丈夫、どうにかする、と言ってくれた。
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