4人が本棚に入れています
本棚に追加
それからの時の経つ早さたるや、急流のようだったとスズは思う。
いつもの仕事を他の侍女に引き継ぎ、第三王女の館の掃除にお召し物の調達。湯殿の清掃にお湯はり。通常ならば一人に任せられるはずのない仕事の量を、今日の夕刻までに済ませなければいけなかった。
従者長様から突然三の姫の御世話係を言い渡されたのが二日前。ながらく主人が不在だったために埃が積もり、大理石を惜しげもなく使ってつくられた豪華な館は寂れていた。
「そう考えると、短い期間でよく綺麗に出来たなぁ」
自分自身を労うように、スズは息を吹き返した宮殿を見て回る。絹のように滑らかな肌触りの寝具は、横になればたちまち深い眠りに誘ってくれるだろうし、宝石の埋め込まれた燭台には迎え火を灯してある。ピカリ、ピカリと鏡のように姿を映す大理石の床。思わず笑みを浮かべて覗き込んでいると、その隣に微笑む顔を見つけて勢いよく振り返った。
「頑張ったねー、スズ」
「エミルさん!」
立ち上がって面を向けると、エミルは苦笑した。
「ごめん、空き時間に手伝おうと思って来たら遅すぎたみたいだ。はいこれ、差し入れ」
「わあ、蒸し団子ですね!」
差し出されたものを受け取り、スズは破顔した。もち米と雑穀を葉でくるんで蒸した滅多にありつけないご馳走だった。ふんわりと上がる湯気と香りに、グウッとお腹がなった。
「朝から食べてなかったの。とっても嬉しい」
「あたしも一緒に食べようと思ってね。くすねてきたのさ」
悪戯っ子のように笑い、中庭の方に目を向けるエミル。開け放たれている玄関から日の光が差し込み、そよ風も流れ込んできて気持ちが良さそうだ。
スズを誘い外に出て適当な場所に腰を掛ける。スズは待ちきれないと葉にくるまれた蒸し団子を剥きかぶりついた。
途端にじゅわりと広がる肉の旨味と木の実の香ばしい味。餅のように粘りけのある米にも旨味が染み込み、極上の味に目をまんまるくする。
「美味しい!」
最初のコメントを投稿しよう!