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「良かった。今夜の宴の料理だから張り切って作ったんだよ」
にっこりと笑うエミルに反してスズの顔は曇る。
「三の姫様の宴の?」
手のひらに乗る料理をみて、スズは昨日感じた不安を思い出した。
「ねえエミルさん。姫様の従者になれば、わたしも嫌われてしまうのよね」
言った鈴に悪気はないんだろう。三の姫の噂は従者の間でも囁かれていた。王の娘にもかかわらず、威厳や破棄がなく自己も持たず、物陰に隠れるような情けないお姫様と。
できの良い他の兄王子や姉姫と比べられるのが嫌になり、逃げ隠れるように離宮に移ったとされる三の姫を敬う者は王宮に誰も居ないのだ。
あったことのないスズでさえ、彼女が陰で『愚図姫』と呼ばれていることから一種の嫌悪感を持っているようだ。
「そんなーー」
「どうしてそう思うんだい?」
遮るように後ろから声が上がり、エミルはハッとする。身体を捻り振り返ると狐を思わせる細い顔の男が、笑みを浮かべ立っていた。
「あら、ネーシャ。仕事はいいのかしら?」
「やれやれ、そっくり返すよエミルちゃん。三の姫様の宴を任された君が抜け出したから厨房は今や大混乱。仕事中の俺がエミルちゃん探しにかり出されるくらいだ」
「全く。ちゃんと指示は出してきたのになあ。行かなきゃみたい」
ばつが悪そうに頬に手を当てたあとでエミルはスズに向かい頭をなでる。
「大丈夫。不安が大きいと思うけど周りの声に惑わされないの。本当の姫様はスズが見て感じるままの人だから。怖がらずに確かめてみて。宴であえるの楽しみにしてるからね」
ネーシャのすぐ脇を掠めるように通り去っていくエミル。残されたスズはエミルの言葉に素直にうなずけなかった。
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