一章

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「もう知られたのか……」 笑顔が萎み、項垂れたネイに対しスウホは軽く笑ってみせる。 「大丈夫だって。腐っても王族。肩書きだけありゃお前の力で押し上げられるよ」 どんぐりのような瞳を細め、人好きのする笑みを浮かべるスウホ。 「だってあの姫様だぞ。もともとの能力が劣ってる上に他の王子や姫には優秀な部下が沢山だ。その中には俺の兄上や姉上達もいる」 「そうさなあ」 顎に手を添え、考えるように見せた後で腰に手を当てる。まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるようにネイの背中を何度も叩いた。 「自分を信じろよ。ネイ、お前なら相手がどんな奴でもどうにか出来るよ。一人が不安ならさ、兵として王宮に集められたとき、真っ先にその姫さんの部隊を志願するから。それまで姫を育てといてくれ。まさか、特攻隊として俺を戦死させはしないよな?」 言われてネイは少し驚いてスウホを見やり、失笑を漏らした。 「もし本気なら相当な馬鹿か気狂いだよ、お前」 世継ぎから一番遠い王族の者が率いる隊は、戦争が起きた際捨て駒にされることが多い。これからネイが仕える姫は、その位置に最も近いのだ。そんな隊に入るのは力のない者や無名の兵、本来ならスウホのような物好きすら断る。 「男に二言はねえよ」 「そうか、馬鹿だったもんなスウホ」 「おいおい仮にも三つ年上に向かって馬鹿とはなんだ」 「本当の事だろ。お前の取り柄はその槍だけだ」 思わず笑みを漏らしたネイはそうだなぁ、となにかを考え込むようにしながら呟く。そして短く息を吐き、自室にかけ戻ると用意していた荷物を背負ってスウホに握り拳を突きつけた。 「育てるに価する姫だったら、俺が必ず王座につかせてみせる」 不敵な笑みを浮かべ言い切ったネイを、今度はスウホが呆気にとられて見る。 「――なにを」 言いかけたスウホ言葉を遮るように、ネイはにっこりと笑んで歩き始めた。そしてふと振り返る。 「そうだな、仕方ないから女王陛下直々の兵として使ってやるか。だから鍛錬だけはサボるなよ。馬の骨のままだったら友人だろうが知ったことか。いいな? しっかりやれよ」 離れていく背中を無言で見ていたスウホだったが、見えなくなると喉をならして笑いを噛み殺し再び歩き出した。
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