一章

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例の如く稽古を脱け出たスウホを連れ戻しに来たハクだったが、若い二人の会話の中に古い思い出を蘇らせ口元を緩めた。 しかし、その顔は一転して複雑なものに変わる。 暴れ馬と身内の中で呼ばれる末の息子は、認めたくは無いが、己の若い頃に似ている。今回の件で少しはしおらしくなるだろうと踏んでいたのだが、これはどうするべきか。 その頭脳と弓剣の技術は同世代を抜きんでて兄姉に迫る勢いだが、あえて比べるまでもなく既に自覚しているようだ。 その自信が従者としての大切なものを欠けさせるのではと気を揉んでいたところに、今回の話が舞い込み悩んだが思いきって送り出すこと決めたが。 「杞憂でございますよ」 耳もとで心地よい声が響く。虚をつかれたように、ハクは振り返った。 「あの子は聡明です。ほうっておいても勝手に育ち、大きくなりましょう」 言葉は冷たく聞こえず、むしろ慈愛に満ちていることが、ハクの不安を和らげた。 「華(ファオ)」 呼ばれて微笑を浮かべる女性は、ハクの妻、華であった。 ふいに彼女は袖を伸べて、ハクの掌を握った。そのなんとなめらかなこと。釜淤家に嫁いでからも変わることなく、絵筆をとり、花を抱くに相応しい手である。 「だがなあ、あれは……」 「親が子を信じられず、どうして務まりましょう?」 華はそう言ってハクの顔を見つめ、迷いなく言う。その深い眼差しを見返しながら、ハクはようやく息をついた。 「……信じているとも」 雄大な体躯を伸ばし、浅黒い肌を覆う濃密な髭をすく。 「私達の子だからな」 それを聞いた華はひっそりと笑みを浮かべハクに寄り添う。 (どうか、ネイの道が明るく輝かしいものになりますように)
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