一章

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布団からはみ出た手足が氷のように冷たかった。 寒さでいつもより早く目が覚めたのだと、窓に未だしがみつく闇を認めてスズは小さく息を吐いた。 ぼんやりとする頭を起こすために、小さく伸びをしてみる。そして傍らに寝る妹分に布団をかけてやり、自分は支度のため枕元に畳んである制服を掴んで宿舎を出た。 王宮の従者の朝は早い。柔らかく短い黒髪に寝癖をつけ、一年前に支給された、ところどころすりきれた制服に袖を通す。今朝の寒さで目が覚めてしまったのか、この時間にしてはぱらぱらと見知った顔がすれ違う。 「おはようスズ。今日は寒いね」 温めた湯をはった桶に手足を入れ洗っていると、専用調理人のエミルがひょっこりと顔をだした。 会うたびにニコニコと笑みを浮かべて話しかけてくれるエミルが、スズはとても好きだった。 「おはようございます。庭へ?」 大きな木製の器を軽々抱える姿に、スズは野菜を採りに行くのだろうと思った。眉尻を下げて困ったように笑うエミルは、独り言ように続ける。 「違うのよ。全く、ネーシャには困ったものよね」 ぶつぶつと口の中で呟くと、スズに向かって手をヒラヒラと振りながらその場から立ち去ろうとする。スズはハッとしてエミルを引き止めた。 「あっ、エミルさん!」 「……なぁに?」 目をしばたたかせて再び顔を出すエミルの側に、スズは濡れたままの足でぺたぺたと寄った。 「聞きました? あの姫様が離宮からお戻りになるそうですよ」 ぐっと声を潜め、眉根を寄せるスズを見て、何でもないようにエミルは頷く。 「ああ、そうらしいね。スズは第三王女様を見たことがあったかしら」
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