一章『高崎千里様』

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恐らく大半の人は経験無いでしょう。目を閉じ、次に開いた時には首輪で拘束されているという怪奇な現象を。 何をどうしたものでしょう……。僕はどうしたらいいのか、池上さんでもわからないと思います。 高崎さんからは、笑顔が消えています。先程はニコニコと眩しかったのに、減光し、しょんぼりとしている姿は痛ましいです。 何とかしたいですが、気の利かない僕は、これもどうしていいかわからず、止まってしまいます。情けない限りです……。 何を気に病んでいるんでしょうか。僕を拘束したことでしょうか。それなら外していただきたいです。 僕にはそのような性癖はありません。鎖に繋がれ、喜ぶ危ない趣向は持ち合わせていません。むしろ鎖は避けたいです。 黙って見ていると、高崎さんは思い立ったように、神妙な面持ちで話始めました。 「急にこんなことをしてすいません……。驚かないで聞いて下さい。実は私、変わった性格を持っているんです……。Sっ気と言うんでしょうか、あの、その……私、そういうおかしなところがあるみたいなんです」 耳を疑う告白でした。 この行為は冗談か、人質にとられたかのどちらかと考えていましたが、マジらしいです。 嘘でしょ……。可憐で清楚な高崎さんがこんな趣向を……。信じられませんし信じたくないです。 てっきり、高崎さんという人は、トイレはせず、子供はコウノトリが運んで来ると考えているのかと思っていました。 それくらいに汚れがなくピュアな存在だと思っていました。しかし実際は首輪と鎖を家に置く女王様と来ました。オーマイゴッド……! 高崎さん像が壊れ、胸の内では絶叫をしていますが、決して表には出しません。表は、騒がず、目を白黒させるだけです。 そんな僕を見て、高崎さんは俯きました。 「軽蔑しましたよね……?」 儚げで弱々しく、悲哀に満ちているのにどこか扇情的なその表情は、妖しく見えました。僕は魅惑的な表情に魅せられ、本音とは無関係に口が動きました。 「そ、そんなことないですよ。恥ずかしがることないと思います」 「……本当ですか? 私を嫌いになってないんですか……?」 「なりませんよ」 腹の底では、まさか……と呆然とする自分がいましたが、それを言える程、残酷でも勇敢でもありません。
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