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「そんなの嘘ですよ……。上原君、嫌そうじゃないですか。嫌なら言って下さい……」
尚も弱々しく、高崎さんは言います。Sっ気があると言っていたのに、何度も訊いてくるということは、大したレベルではないようです。本当のSなら問答無用でやりそうですからね。
程度の小ささに安心し、僕は落ち着いて答えました。
「そんなことないですよ。嫌じゃないです」
「本当ですか……?」
「はい」
「良いんですか?」
何が?
口をつきそうになりましたが、寸でのところで止め、僕は頷くことにします。嫌というと、もう二度と高崎さんと関わり合えない気がして、怖かったというのが本音です。
「はい」
「良かったです……」
安堵してくれたみたいで、高崎さんは大きく溜め息を吐きました。
僕も良かったです。高崎さんとの関わりが消えるのは辛いですからね。それに高崎さんなら、少々のSっ気も楽勝で許容出来ます。
「喉渇きませんか?」
高崎さんから不安そうな様子は一切見えなくなりました。いつもと変わらぬ清純で神々しいものになってくれました。
「少しだけ」
焦りと驚きで喉が渇いたので、僕はそう告げました。するとおっちょこちょいの高崎さんは、僕の首輪を外すのも忘れ、とびきりの笑顔で台所へと向かいました。
ああ、やっぱり可愛いです! 今の笑顔は何物にも変えがたいです。彼氏という特別な関係だからこそ見れる、至福の表情です。
悶絶ものの可愛いさに唸っていると、高崎さんが帰ってきました。
……見間違えでしょうか。普通、飲み物を飲む時はコップですよね? なのに高崎さんの手にはコップが見当たりません。
WHY? 睡眠不足なんでしょうかね……。高崎さん間違えちゃってますよ……。
高崎さんの手に握られていたのは、犬や猫が水を飲む時に用いられる、底の浅い皿でした。
「間違ってませんよ」
またもやとびきりの笑顔です。可愛いです。けどどうしてですかね。さっき程可愛いと思えないのは……。
「飲んでください上原君」
僕の手には渡さず、高崎さんは床に皿を置きました。それが何を意味するのかは考えるまでもありません。
この人ちょっと変わってるね……。
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