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首輪プラス皿、これはつまりそういうことなのでしょう。少し前まではウキウキとした空気だったのに、今や異質なものに変わってしまいました。
意味することをわかってはいましたが、人間としての尊厳や誇りがある故、僕はお皿に手を伸ばしました。
それを制する声。
「上原君、それは違いますよね」
にっこり、けれど邪悪な笑顔は、初めて見る表情でした。
今までのどんな時よりも楽しそうです。嫌じゃないと答えたことにより、ふっきれたんでしょうか。そんな目覚めは勘弁願いたいです……。
僕は声に逆らうことが出来ず、手を渋々戻しました。突き刺さるような視線に見守られ、僕は固まってしまいます。
わかりますよ。もちろん。この流れは、普通に水を飲んでは駄目なんでしょうね。それくらいは空気の読めない僕にもわかります。
わかりますが……それはさすがに……。
ちらりと高崎さんの様子を窺うも、相変わらずの笑顔です。可愛いんですが、望みがイカれています……。
ノーマルの僕はなかなか決心がつきませんでした。
「上原君、水飲まないんですか?」
逸る気持ちを抑えきれないのか、高崎さんはまた尋ねてきます。その願望を叶えてあげたいのは山々なんですが、僕にもプライドがあります。
いくらあの高崎千里さんの願いとはいえ、こんなゲスなことは……。
僕が躊躇っていると、高崎さんは悲しげに俯き、呟きました。
「やっぱり私、おかしいですよね……」
コンマ数秒、僕は顔を皿に近付け、犬か猫のように水に食らいつきました。
品のない音をたてながら水を啜ります。
人間としての尊厳? 誇り? 高崎さんの前では無力でした。
一心不乱に、理性を持たない動物と同じようにはしたなく水を飲みました。恥なんて感情は昨日に置いてきました。
視線は皿に向いているので高崎さんの表情は見えませんが、近付いて来ているのはわかりました。
僕の前で屈み、優しく微笑んだ高崎さんは妙に艶っぽかったです。そして高崎さんは僕の頭を、それこそ動物のように撫でました。
良くできました。賢いね。とでも言わんばかりに。
部屋は水を啜る耳障りな音だけが響いていました。
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