一章『高崎千里様』

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首輪プラス皿、これはつまりそういうことなのでしょう。少し前まではウキウキとした空気だったのに、今や異質なものに変わってしまいました。 意味することをわかってはいましたが、人間としての尊厳や誇りがある故、僕はお皿に手を伸ばしました。 それを制する声。 「上原君、それは違いますよね」 にっこり、けれど邪悪な笑顔は、初めて見る表情でした。 今までのどんな時よりも楽しそうです。嫌じゃないと答えたことにより、ふっきれたんでしょうか。そんな目覚めは勘弁願いたいです……。 僕は声に逆らうことが出来ず、手を渋々戻しました。突き刺さるような視線に見守られ、僕は固まってしまいます。 わかりますよ。もちろん。この流れは、普通に水を飲んでは駄目なんでしょうね。それくらいは空気の読めない僕にもわかります。 わかりますが……それはさすがに……。 ちらりと高崎さんの様子を窺うも、相変わらずの笑顔です。可愛いんですが、望みがイカれています……。 ノーマルの僕はなかなか決心がつきませんでした。 「上原君、水飲まないんですか?」 逸る気持ちを抑えきれないのか、高崎さんはまた尋ねてきます。その願望を叶えてあげたいのは山々なんですが、僕にもプライドがあります。 いくらあの高崎千里さんの願いとはいえ、こんなゲスなことは……。 僕が躊躇っていると、高崎さんは悲しげに俯き、呟きました。 「やっぱり私、おかしいですよね……」 コンマ数秒、僕は顔を皿に近付け、犬か猫のように水に食らいつきました。 品のない音をたてながら水を啜ります。 人間としての尊厳? 誇り? 高崎さんの前では無力でした。 一心不乱に、理性を持たない動物と同じようにはしたなく水を飲みました。恥なんて感情は昨日に置いてきました。 視線は皿に向いているので高崎さんの表情は見えませんが、近付いて来ているのはわかりました。 僕の前で屈み、優しく微笑んだ高崎さんは妙に艶っぽかったです。そして高崎さんは僕の頭を、それこそ動物のように撫でました。 良くできました。賢いね。とでも言わんばかりに。 部屋は水を啜る耳障りな音だけが響いていました。
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