一章『高崎千里様』

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この関係を付き合っていると呼べるんでしょうか。主従関係であり、これでは彼氏というよりもペットです。 不甲斐ないですが、僕は黙って水を飲みました。 悪友が言っていた、裏とはこのことでしょうか。告白した理由は好意からではなく、適当な玩具に出来そうだったから、こうなんでしょうか……。 だとしたら泣きたいです。 十時頃、僕は首輪を外してもらい、そそくさと帰りました。高崎さんは笑顔で別れを告げましたが、僕は笑えず、さようならとだけ伝えました。 家に帰ってからはただひたすらに悩みました。僕の存在意義と、高崎さんの考えについて。 長時間掛けても答えは出ず、気付くと朝になっていました。 今さら寝る時間も無いので、お風呂に入り、身なりを整えてから、原付に乗って大学に向かいました。 「おい、見ろよ」 「ん? あ、カス男じゃねぇか!」 「本当だ!」 駐輪場に愛用品であるバイクを止めていると、周囲からはおぞましい視線と、オプションで悪口が飛んできました。 「あいつなに原付なんか乗ってんだよ死ね」 「偉そうにヘルメットなんか被りやがってよ、死ね」 「何であいつなんだよ……くそ」 「あいつより俺の方が良いだろ」 「噂では高崎さんの両親を人質にとってるらしいぞ」 「はあ? あのクソゲスカス野郎! ぶっ飛ばしてやりてぇよ!」 「何であいつなんだよ畜生……!」 「高崎さん……」 「あならまかはらまならなはらまなさら」 怒りにうち震える者や、僕に向けて石ころを投げてくる者、号泣する者、聞いたことのない言語を発する者、等々バリエーションに富んだ連中の行動も、漸く慣れてきました。 心の中で謝りながら、なるべく刺激しないよう、足早にその場を去りました。
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