一章『高崎千里様』

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「そんなの田島に言われなくたってわかってるよ。僕が一番そう思ってるんだから」 ぶっきらぼうに言い返し、僕はうどんを啜ります。こしのある麺とつゆが絶妙に絡まり、つい箸を伸ばしたくなる美味しさです。 田島は憎々しそうにご飯をかきこみます。 「お前は高崎さんを楽しませてあげれてんの? 女に対してはへっぽこのお前だ、どうせ何も話せてないんだろ?」 行儀が悪い癖に、田島は僕の失態を見事に当てやがりました。図星です。 押し黙る僕に、更に田島は続けます。 「やっぱりな。お前みたいにイケメンでも無い奴は、話術でカバーするのが普通なんだよ。なのにお前ときたら……」 やれやれとばかりに首を捻る田島。苛立ちはありますが、それ以上に自分の非が大きいので、何も言い返せませんでした。 「別れちまえ。どう見ても釣り合ってないぞ。方や才色兼備の絶世の美人。方やろくに話も出来ない冴えない根暗野郎。どう考えてもおかしい」 一度お茶を飲み、田島は再び喋り始めます。 「俺はな、高崎さんと付き合いたい。でもそれは無理な話だ。俺だって大した奴じゃないからな。そんな立場の俺としては、高崎さんがどうせ付き合うなら、お前みたいな奴じゃなくて、神藤みたいな奴に付き合ってもらいたいわけよ」 神藤とはイケメンです。フルネームは神藤龍之介です。イケメンです。はい。これ以上の説明は控えたいです。だって嫉妬心が強いですもの……。 「神藤龍之介! ほら、名前からしてかっこいいだろ。うえはらかずお……。名前の時点で負けてんだよ。神藤千里は良いけど、上原千里は駄目だろ。高崎さんに相応しくない!」 ここまで言われて黙っているわけにはいきません。温厚な僕といえども、少し声を荒げさせてもらいます。 「人の名前を馬鹿にするな! 親から貰ったんだぞ! 一雄って良い名前じゃないか! それから、全国の上原さんに謝れ! というか田島だってそんなにかっこいい名字じゃないからな!」 「なっ! 田島だぞお前! 田んぼの島だぞ! ふざけんじゃねぇよ!」 「田んぼの島だからなんだよ! 別にそれを聞いても、うわぁ凄いとはならないからな!」 「なに偉そうに言ってんだよお前は! 別れちまえ!」
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