プロローグ『そんなことって……』

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昔はこうではありませんでした。小学生の頃は活発で明るく、イケイケなガキでした。なのにいつからか、僕は沈んでいきました。 何だかんだと言いながらも、結局は僕自身が悪いのです。否定してばかりで受け入れようとせず、性格のせいにして逃げる、そんな自分の考え方が大嫌いです……。 それはともかく、僕は華のキャンパスライフを寂しく送っていました。寂しいと言っても、男の友人はいます。男には遠慮がちになることもあまりないので、独りぼっちでは無いです。 とはいえ年頃の男なら、彼女が欲しいのが共通の思考です。いくら駄目人間の僕でも、そこは同じですよ、ええ。 恥ずかしながら、淡い恋心を抱いている相手もいました。それこそ恥ずかしくて、滅相もない話なのですが、僕の好きな相手は高崎千里さんです。 高崎千里さんは、ミスキャンパスであり、男子生徒全員が認める美貌を持つ女性です。才女でもありますが、本当に素晴らしいのは、その性格です。 恐らく彼女はマザーテレサの生まれ変わりです。聖母です。非暴力のガンジーもびっくりの素晴らしさです。 優しいのです。誰に対しても、分け隔てせず。噂では捨てられた動物を、動物園が出来るくらいに拾っているらしいです。 容姿や何よりも、その優しさが一番の魅力です。 実は僕、少しですが接したことがあります。入試の時でした。消しゴムを忘れて慌てる僕に、自分の消しゴムを半分に千切り、くれたのです。 もはや天使ですよ! 人の姿をしたミカエルですよ彼女は! その時の思い出は今も胸に残っていて、それがきっかけで好きになりました。覚えている理由がもう1つあります。自分の情けなさです……。 高崎さんは察して渡してくれたというのに、優しく微笑みかけ、どうぞ、と言ってくれたというのに、何ということでしょう! ポンコツな僕は無愛想に受け取ったのです! 匠も唖然です……。 情けないです……。嬉しかったんですが、それを素直に表現出来ないんです……。
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