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何処で知ったのか、僕の名字である上原に、君を付けて下さり、呼んで下さいました。
呼ばれた刹那、周囲の分類学上オスに当たる者達の、憎悪に満ちた視線が僕に向けられました。無理もありません。高崎さんは大学の絶対的存在なのですから。
高崎さんが休むと、この学校の男子生徒の八割がその日笑顔を失うという伝説がある程です。
高崎さんが男と接することは滅多にありません。高崎さんから話しかけるのが少ないというのと、男達が話しかけないからです。
男達は緊張状態にあり、我こそはと話しかけるなど言語道断で、そんな無礼者は周りからマークされることになるのです。とにかく話しかけるのが難しいわけです。
そんな中、僕のような普遍的な一生徒が呼ばれたのですから大変です。口々に呪文を唱えていました。大半は脅迫でしたが……。
背筋が凍るような恐怖があったものの、高崎さんに呼ばれて動かない筈がありません。僕は足を震わせながら向かいました。
何か用ですか?
と僕は白々しくクールを気取って無愛想に尋ねました。どうして愛想よく出来ないのか……死ねばいいのに……。
内心はバクバクでした。鼓動が半端ではありませんでした。ショック死しそうでした。場所を人通りの無い所に変え、用件を聞きました。簡潔に言うと付き合ってくれとのことでした。
その言葉を聞いても僕は動じません。あまりに現実離れしていたために気付いてしまったのです。白昼夢を見ていることに。
自分の妄想力に呆れて、僕は壁に力いっぱい頭突きをしてやりました。闘莉王並みのヘッドをかましてやったというのに目は覚めません。
それどころか、痛さのあまり眠ってしまいそうでした。流血する僕を、高崎さんは心配そうに見ていました。
ここで僕は気付きました。質の悪い嫌がらせだと。
恐らく周りで見ているのでしょう。無様に喜ぶ僕の醜態を一目見ようと。額から流れ出る血を無視し、僕は考えました。
どのように断わろうかと。断わり方によっては、勘違いしてるやがる! キモーい! ギャハハハ! に成りかねません。それは避けたいです。
しかし嫌がらせの対象に挙がるとは、僕はそんなに疎まれているんでしょうか。涙が出そうになりました。
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