34人が本棚に入れています
本棚に追加
じゃらじゃらと金属の擦れる様な音が聞こえましたが、ドッキドキの僕の鼓膜はシャットダウンしています。雑音にもなりません。
手も繋いでない関係に、僕みたいなクズでもやきもきはしていました。年頃ですから。
しかし踏み出す勇気は到底なく、今の状況に歓喜している自分がいました。こういうところが駄目なのでしょうが、僕はそんな自分を嫌悪するしか出来ませんでした。
鈴を鳴らしたかの如く涼しげで耳心地良い声が聞こえました。目を開けても良いとの旨に、少々がっかりしつつも、僕は目を開きました。
すると笑顔の高崎さんが待っていました。
何をしたのかな?
ふと左右を見渡すも、変化は見られません。しかし首には違和感が。知ってはいけない、知ってしまっては後戻り出来ない、そんな不安に襲われましたが、僕は首に手を伸ばしました。
恐る恐る首に手をやると、肉体の柔らかさではなく、ベルトのように固い素材を感じ取りました。
嫌な予感がしました。鼓動が騒いでいました。警鐘のようにうるさく、僕は胸を押さえました。
それから後ろを振り返りました。深くは考えず、知り合いを見つけたかのように。
そこに待っていたのは知り合い等という生易しいものではなく、鎖というまがまがしい物でした。
鎖は壁から僕の首に伸びていました。手で鎖を引くと、首に震動が。漸く、僕の回転の遅い頭でも気付きました。
繋がれていることに……。
手を繋ぐ前に鎖で繋がれるとは夢にも思いませんでした。
「どんな感じですか?」
高崎さんが嬉しそうに、しかしどこか不安げに言いました。
「……複雑な感じです……」
考えず、僕はよくわからない返事をしました。
ここからです。僕の物語が始まるのは。
衝撃の幕開けには心配しかできませんでした。
最初のコメントを投稿しよう!