犬ヲ逃ガス事

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 商店街。  人混み。  少女。  薬局の前のポストに、 犬が繋がれておりました。  ――あら。  真っ赤な、真っ赤な。  真っ赤な郵便ポスト。  少女はポストの前にしゃがみ込み、   『いけないわ』  少女の呟きは、人混みに溶けて。  犬の声は、人混みを掻き分けて。   『こんなに真っ赤な、郵便ポストに。犬を繋いでは』  少女のか細い声はしゅるしゅると、人混みへ。   『これは、いけないわ』  少女白く、細い指で、犬の首輪を、。   『さあ、逃げなさい』  犬は、黙ったまま、少女を見つめて動きません。   『ほら、はやく。貴方のご主人に気づかれてしまうわ』   『そうね――北が良いわ。北へ走りなさい、さあ』  犬は、ひと吠えして、少女の指差した方向へ、  少女は立ち上がると彼女の声と同様に、しゅるしゅると人混みへ融けてゆきました。  少女の融けたあとには、真っ赤な郵便ポストがヒトリ、佇んで、
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