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予想以上に大きな音をたてた木製のカウンターに少し我にかえったのか、女性は「ふぅ」と息を吐き椅子に深く座り直した。
「あいつの浮気なんてさ、いつもの事だけど…許せないもんは許せないのよ。わかるでしょ?」
「はぁ、まぁ、そう、ですよねぇ~」
気のない返事をする美果を女性の鋭い目がギロリと睨む。
「あっ、いやっ、ホント、許せませんよねっ!」
慌てて機嫌をとるように必死にカクカクとうなずく美果の間抜けな様子を見て、女性は呆れた様に大きくため息をついた。
「はぁ~あ。ホントやんなっちゃう。なんであんな男、好きになっちゃったのかな~。」
頬杖をつき遠くを見つめる様に窓の外に向けられたその目には、さっきまでの興奮の色は無く、変わりにうっすらと光るものが溢れて来ていた。
「でもね、ホントはさ、それでもあいつを嫌いになれない、そんな自分が、一番、やんなっちゃう。」
フフッと自分を慰めるように笑って涙をぬぐう女性に、美果はかける言葉が見つからずただオロオロとするばかり。
(マ、マスタ~、早く戻って来て~~!)
美果の必死の思いが通じたのか、静かな店内に「ギィ」とドアの開く音が響いた。
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