ご機嫌な暴君

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    屋敷の人々は錬一のことを「人嫌い」、「狡猾」、「金食い虫」など、三年続く彼の引きこもり生活を含め色んな言葉で揶揄するが、いずみは錬一をそんな屋敷中のどんな人より繊細な人間だと思っている。そんな悪口を直接聞かされるのがおそろしくて、部屋から出れないでいるのだと。   いずみからしてみれば、あの優しい笑顔が「狡猾」と呼ばれることのほうがよほど信じられないことだった。     だから、あのときのあの目線が閉めきられた錬一の部屋からであったということに、いずみは衝撃を受けたのだ。     あれは、確かに「人嫌い」の目だった。       「いずみ」   呼び止められて振り返ると、そこには兄の姿があった。   「兄ちゃん!」     反射のようにいずみが笑う。   それを見て雅人もにっこり笑うと、いずみの目の前までやってきてがばっと両腕を広げた。そのままいずみをぎゅうぎゅうに抱きしめて、「いずみーお前マジでかわいすぎだっつのー」とからから笑う。それに対して、いずみはさほど大きな拒否も示さず、慣れた様子で「兄ちゃんも当番会議?」と腕の中から兄を見上げた。   「あ、うん」   そうなんだけどね、とどこか歯切れ悪そうに返した兄に、いずみが首を傾げると、雅人は「……ちょっと話があるの、いいかな?」と少し真面目な声で腕をほどいた。     「……?うん」        
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