ご機嫌な暴君

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    「ねえ、そういえば昨日の昼、おもしろいものを見たよ」     錬一は、新しいおもちゃの腕をもぐときのような、凶悪な笑顔で雅人の顔じゅうを指で弄ぶ。「スカートを履いた男」そう言って黒目だけで雅人を見ると、彼は続けて「女みたいに華奢で、変に似合っている辺りが不気味だったなあ」 ああ、それはお前もだっけ、と言った。   雅人は思案した一瞬のうちに、昨日の当番会議でいずみが裏庭の掃除にあたっていたこと、錬一が一週間前にカーテンをめった切りにしたため、一時ドレープカーテンではなくレースカーテンにしていたことを思い出した。   錬一が見たのは、弟だ。     「……いずみ……」   気付いた瞬間、雅人はその名を口にしてしまっていた。錬一の眉がぴくりと動く。「知り合い?」雅人は少し言うのをためらってから、「……弟です」と呟くように返した。   「ふぅん」     ゆるやかに上がる彼の口角を見た瞬間、雅人は己の失言に気づく。しかし、もう遅い。       「錬……」 「呼んでよ、ここへ」        
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