ご機嫌な暴君

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    「……!」   その一言に、雅人は音もなく絶望した。   錬一は与えられたおもちゃの愛で方を知らない。先ほどの無惨なラブレターや、随分前に錬一によってバラバラに分解されてしまったラジコンと、弟の姿が重なって、雅人の背筋を凍らしてゆく。   拒否することも、ましてや受け入れることもできずに黙り込む雅人に、錬一は楽しそうに声をかけた。     「そんな顔しないでよ」   別に雅人に飽きた訳じゃないよ? と、雅人の顔を強ばらす原因はそんなことではないとわかっているくせに、優しく背中を撫でてみせる。「大丈夫、『いずみ』を好きになんかなってやらないよ」錬一は、雅人の表情を満足げに見つめ言った。まるでその顔を見たかったがために酔狂なことを言い出したとでも言うように。   「お前を解放してあげない」     目を、逸らせない。   雅人は吸い込まれるように、底の知れない暗い闇を放つ、真っ黒な錬一の瞳を見つめる。 錬一はそんな雅人に「お前が俺のものになってくれるなら、『いずみ』なんか要らないんだけどなあ」と、落とすように小さく、しかしはっきりと告げた。 心臓に激しい揺れを感じながら、その不快な響きに耐え、雅人は「……いずみは……」と掠れる声で呟いた。   「いずみは優しい子で……だから……」 「だから?」     今、目の前の男は確かに提示しているのだ。 自分か、『いずみ』かを。   自分のせいで弟が傷つくことなどない、そんなこと耐えられない。そう思ったのと同時に、愛しい京の顔が雅人の脳裏を掠めた。   いずみじゃなくて俺が、その言葉を寸でのところで飲み込んで、雅人は「……だから、錬一様もすぐに気に入ると思います」と下手くそな笑顔をつくる。その笑顔を一蹴して、錬一は「なるほど」と言った。「雅人はどこまでも兄貴の味方なんだね」弟より大事なんだあ、と冷めた顔で棘のある言葉を雅人に投げる。   「兄貴を裏切るのがそんなに嫌?それとも俺の言いなりが嫌なの?」   答えない雅人に、錬一は続けた。     「どっちにしろ、お前が弟を見捨てたのは事実だけど」 「ちが……」 「あれ?ちがうの?」     錬一は雅人を覗き込み、容赦なく彼に決定打を決める。      
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