或いは世界の終わり

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        この屋敷には、ふたりの子息がいる。   現在大学で経済学を学んでいる兄の京と、人間不信のあまり外の世界を嫌い、三年前からぱったり部屋を出なくなった弟の錬一だ。   どちらも、いずみや他のメイド達にとってそう安々と会える相手ではないが、特に錬一は三年前から一向に人と関わろうとせず、そんな彼に唯一お目通りが叶うのは雅人というメイドだけだ。それがいずみの兄である。   それからメイド仲間の航、彼もある理由で男でありながら双葉兄弟と同じくメイドをしている。   屋敷内で異色を放つ女装男子は、いずみを含め以上の三人だ。       いずみは、明るく気さくな兄を心底尊敬していたし、それと同じくらい優しい航が大好きで、同時に錬一に対して強烈な憧憬の念を抱いていたから、ここでのそれなりにつらい労働生活も、あんまり苦ではなかった。   ただ、仕事ができて、誰に対しても明るくて優しい、そんな兄と比べられることだけが、いずみの小さな憂鬱で、もしおれが兄ちゃんみたいに天真爛漫な性格なら、錬一様のお近づきになれたかもしれないのに、と思わないでもなかった。     もっとも、兄が錬一ではなく京の恋人であるのは、屋敷中で知らないものはいないくらいのトップスキャンダルなのだけど。    
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