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自分とはまるで正反対な兄が、いずみにはコンプレックスであり憧れだった。それは初めて兄と自分が比較された日から今日まで、ずっと持ち続けてきた感情である。
「あ、いたいた。いずみ!」
後方から航の声がして、バカみたいな考えはすぐに掻き消える。大時計を見ると、なるほど12時。ボーン、と鐘が鳴った。
「メイド長が昼飯にしようって。早く行こうぜ」
「ほんと?やったぁ」
お腹空いてたんだよ、そう言えば、じゃあ尚更早く、と航に引っ張られる。しかし、歩き出してすぐに忘れ物を思い出したいずみは、「ごめん航」と呟いて立ち止まった。すると、眼前にある黒髪は揺れて、それから振り返った。
「ん?」
「ほうき忘れちった」
「はぁ?またかよ、ったくどんくせえなあ」
「ふふ、ごめんね?ちょっと待ってて。取ってくる」
いずみは航に微笑みかけ、踵を返して裏庭へほうきを取りに行った。
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