或いは世界の終わり

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    落ち葉がかき集められた木の下にある箒に近寄り、左手でしっかり握り締める。そして、少し向こうの航に振り返って、駆け出そうとした瞬間、突風が辺りを突き抜けた。     プリーツスカートが揺れている。フリルが首元で踊っている。黒髪がたゆたっている。 まるで生命のような風が、集めた落ち葉を四方に飛ばした。「っうわ、ぷ」舞った葉の一枚がいずみの顔に当たり、思わず声が出る。風はすぐに止み、乱れた黒髪をそのままに、いずみは空を仰いだ。不意に、視線を感じた。   「…………?」   誰かに見られている。こう見えても、そういうのには敏感だ。その遠慮会釈ない視線の主を探して、キョロキョロしながら振り返った瞬間だった。高い高い屋敷の、シャトーを思わせる建物のてっぺんに、白樺の窓枠。いつも閉まっていた筈の真っ白いカーテンは何故か少しだけ開いていて。       一瞬だけ見えた人影に、いずみは思わず身震いした。   「……ひ…っ」   刺すような、人を嫌うようなその視線に、心臓が大きな音を立てて、額からは自然と冷や汗が出る。あそこは確か、と思案している一瞬のうちに、人影は消えた。本当に一瞬だった。だけど気のせいでは決してない。   それにあそこは、あの部屋は、錬一様の部屋だ。       「いずみ!早くしろよ!」    
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