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航の声で慌てて我に返って、さっきよりずっと強くほうきを握り締めながら、いずみはその場を走り去った。
もう視線なんて何処からも感じられないのに、心臓の音はひどくなるばかりで、それをごまかすように、あの一瞬の出来事を振り払うように、ただ走った。
(あれは誰だ?)
確かに錬一様の部屋だった。
じゃああの人が?
いや、あの人はあんな冷たい目線で人を見たりしない。
おれが知ってる錬一様は……
「おいコラいずみ、なに俺無視して全力で走ってんだよ!」
怒鳴る航を追い越すほど、いずみは走った。そうして走って帰ってきたいずみと航を待ち構えていたのは、さながら弁慶のように仁王立ちしているメイド長だった。
慌てて二人で頭を下げると、彼女はわざとらしい怒り顔をやめて、「とっとと飯食ってきな、冷めちまうよ。それが終わったら仕事だからね」と二人の頭をわしゃわしゃと乱暴に優しく撫でた。
はぁい、といずみが言って、航は小さくお辞儀をする。
メイド長の横を過ぎると、二人は学校の教室くらいの大きさの食堂に入り、いつもの席について手を合わせる間もなく目の前のカレーにがっついた。
「うめぇ~!」
「そりゃよかった」
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