或いは世界の終わり

6/8
前へ
/52ページ
次へ
  航の声で慌てて我に返って、さっきよりずっと強くほうきを握り締めながら、いずみはその場を走り去った。   もう視線なんて何処からも感じられないのに、心臓の音はひどくなるばかりで、それをごまかすように、あの一瞬の出来事を振り払うように、ただ走った。     (あれは誰だ?)   確かに錬一様の部屋だった。 じゃああの人が?   いや、あの人はあんな冷たい目線で人を見たりしない。 おれが知ってる錬一様は……   「おいコラいずみ、なに俺無視して全力で走ってんだよ!」 怒鳴る航を追い越すほど、いずみは走った。そうして走って帰ってきたいずみと航を待ち構えていたのは、さながら弁慶のように仁王立ちしているメイド長だった。   慌てて二人で頭を下げると、彼女はわざとらしい怒り顔をやめて、「とっとと飯食ってきな、冷めちまうよ。それが終わったら仕事だからね」と二人の頭をわしゃわしゃと乱暴に優しく撫でた。   はぁい、といずみが言って、航は小さくお辞儀をする。   メイド長の横を過ぎると、二人は学校の教室くらいの大きさの食堂に入り、いつもの席について手を合わせる間もなく目の前のカレーにがっついた。     「うめぇ~!」 「そりゃよかった」    
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加