或いは世界の終わり

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  柔和な笑みを浮かべている、本日の厨房担当・航の向かいでスプーンをカツカツ鳴らす勢いでカレーを食べる。午後からの仕事がハードだから、お昼はいっぱい食べなきゃね。そう言って笑う兄を、何故か唐突に思い出した。雅人はもうずっと食堂で食事をとっていない。もちろん今日だってここには来ないだろう。         すらりと、少し骨ばった綺麗な5本の指を操る手のひらが、いずみの頬に伸びる。唇の右側を親指で押さえつけ、他の四本が余すことなく顎を撫でる。その撫で方に含みを感じて、つい顔が赤くなる。その顔を航が笑って、「ご飯粒ついてた」と言った。     「もう!航……」   抗議の声を上げようとスプーンを置くと、いやに高い声が聞こえてきて航が眉を寄せた。いずみは声の主達に目を向ける。それから、あああの人達か、とため息を吐いた。みんながみんな親切な人ばかりではないと分かっている。分かっているのに、やはり慣れない。ハッキリ聞こえるひそひそ話は、嫌いだ。   「雅人くんは?」「私知らない」「あたしも」「まぁた京様でしょ、どうせ。決まってんじゃない」「ええーじゃあまた私達がその分仕事?」「ホンット!迷惑よねぇ」   『迷惑』その言葉を皮切りに、一斉に集まる視線と、握りしめた手のひらに爪が食い込んで、頭の奥がいたい。「でも本当に聞いて呆れるわ、大財閥のご子息ふたりが揃いも揃って同性にメロメロなんて」笑い声が耳に響いて、それもいたかった。    
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